不死身の俺を殺してくれ
 煉が紅子の料理教室へ通い始めてから、早一週間が過ぎようとしていた。

 めきめきと上達していく煉の料理の腕は、最早、ちょっとした定食屋を営めるくらいの成長を遂げていた。

 日々、試作品と称してテーブルに並べられる煉の料理の数々に、さくらは嬉しく思う反面、少し困ってもいた。何故なら──。

「なんか、太った気がする……」

 出勤前。さくらは洗面所の鏡の前に立ち、自身の顔を色んな角度から眺めていた。

 頬の肉付きが以前よりも少し、ふっくらとしているような気がしないでもない。

 顎を引くと、ぎりぎり二重顎にはなってはいないものの、鏡に写された自身の姿に、何故か言い様のない焦燥感に駆られる。

 ──このままでは確実に、どんどん太ってしまう……気がする。

 焦りを覚えたさくらは客観的な意見を聞くために、洗面所を抜けて、朝食の後片付けをしている煉の後ろ姿に声を掛けた。

「ねぇ、煉。もしかして私って、少し太ったかな?」

 どうか、私の思い違いでありますように……。
 
 という、さくらの切なる願いも虚しく、布巾(ふきん)を片手に振り返った煉は、さくらを一瞥した後、正直な感想を口にした。

「あ? ……そうかもしれないな」

「う……」

 やっぱり、そうなんだ……。私、いつの間に太っちゃったんだろう。体型維持には気を付けてたつもりなのに。

「どうかしたのか」

 煉はさくらの様子を不思議に思い、小首を傾げる。

「……何でもない。お仕事、行ってきます」

 太ってしまったという事実にショックを受けたさくらは、最早何も答える気力はなく、どんよりとした気分のまま会社へ向かった。

 ◇

「あ」

 午前の業務を終えて昼休みに入り、さくらはいつものようにバッグから、煉お手製の弁当を取り出そうとする。が、しかし、肝心の弁当がバッグに入っていないことに気がつく。

「どうしたの?」

 優に問い掛けられ、視線を上げて答える。

「お弁当忘れてきたみたい……」

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