不死身の俺を殺してくれ
「説明は苦手だ。簡略に言う。紅子さんの伝《つて》で和食料理店の見習いをすることになった。人間に戻れた以上、いつまでもさくらに養われているのは男として情けないからな。いい機会だと思い、頼んできた」
「……えっと。話が急過ぎて、状況がよく見えないんだけれど」
小さめに切り分けられたチーズケーキを、あっという間に完食したさくらは、少しそう困惑な面持ちで、コーヒーカップを手にする。
「つまりだ。職を探していると俺が言ったんだが、紅子さんが良い店があると言ってな。料理が好きなら一度そこで働いてみたらどうだと勧められたんだ。そこの店の亭主は所謂《いわゆる》、頑固親父らしいが、問題ないだろう」
つい先日のことだった。
すっかり紅子と打ち解けた煉は、連日通いつめている料理教室で、他愛ない雑談を紅子と交わしていた。
その時に、何気なく自身の胸に秘めていた将来を口にしたのだ。
──いずれの話になるが、料理に関する仕事につけたらと思っている。
勿論、言葉にしたからといって、簡単に就ける職業ではないことは解っていた。一から──いや、零《ゼロ》からのスタートになるということは、誰よりも人一倍以上に努力をしなければならない。
漠然とそんな事を考えていた矢先に、紅子は思いがけない提案をしてきた。そして煉は、その提案を躊躇すること受け入れたのだった。
「事後報告で、すまない」
「……そっか。良いと思う。煉の得意な料理を自分の仕事にするの。……うん! 私、応援するよ。煉のことを全力で」
謝罪の為に下げていた頭を上げると、さくらは優しげな眼差しで煉を見つめていた。
「……いいのか?」
「当たり前じゃない。応援しない理由なんてないよ。煉の料理の腕がすごいのは、私がよく知ってるから」
どんな時でもさくらは俺の気持ちを尊重し、否定することはない。それが、どれだけ有り難いことなのか。改めて、この身に沁みる入る思いだった。
さくらは、つくづく肝の据わった女だと思う。
──だからこそ、俺は。
こんな俺を決して突き放すことはしなかったさくらに、恩返しをしたいと心から思った。
「ありがとう。精一杯努力する」
「うん。頑張ってね」
さくらの笑顔に、煉もつられて優しげな微笑みを溢した。