不死身の俺を殺してくれ
 九月某日、日曜日。

 さくらは少しの不安を抱えたまま、優の結婚式当日を迎えた。

「ネクタイが結べないんだが……これはどうやるんだ?」

「ああ、ちょっと待ってて。今、手が放せないの」

 煉の為に新調した冠婚用の礼服は、さくらが以前勝手に想像していた姿とは異なり、ホストにも怖い人にもならずに済み、見事に着こなしていた。

 普段は無造作にカットされたままの髪型も、今はさくらの手により、ワックスで綺麗に整えられ、隠れていた端正な顔立ちが(あらわ)になっている。

 正直、結婚式に連れて行くのが惜しい。

 煉のことだし、ナンパの類いは皆無だろうけど、新郎の司さんより目立つのではないかと、不要な心配をしてしまう。

「……やっぱり。ふっ!」

 そして、さくらは鏡に写った自身の後ろ姿を見つめながら、パーティードレスのファスナーと格闘していた。

 背中の途中で止まったファスナーを、何度も閉じようと奮闘するが、ほんの少しのアレが、邪魔をして閉じることが出来ないでいた。

 どうして、こんなデザインのドレスを買ってしまったのか。自分自身に対する不満の、ため息を溢す。

「おい。そろそろ時間じゃないか? 一体何をしているんだ。入るぞ」

「だ、ダメっ! まだ準備が出来てないの! 開けないでよ!」

 この日の為にダイエットはしてきたつもりだった。でも、煉の料理と食後に出されるデザートが毎回美味しく、結局のところ、密かに行っていたダイエットの成果は、あまり見られなかったのだ。

 無情にも煉の手によって、寝室の扉が開け放たれる。

「…………」

 背中に手を回し、懸命にドレスのファスナーを閉めようとしているさくらの姿は、煉の瞳に酷く滑稽《こっけい》に映ったのか。お互いに顔を見合わせ、その場で沈黙した。

「……だから、開けないでって言ったのに……」

「ファスナーは俺が閉めよう。前を向け」

 そう言いながら室内に入って来た煉に、さくらは俯きながらも素直に背を向けた。

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