不死身の俺を殺してくれ
 背中に煉の気配を感じ、羞恥と緊張感が走る。こんなにみっともない姿を、煉に見られるなんて思ってもなかった。きっと、呆れてるに違いない。さくらは諦念し、目蓋を閉じた。

 すると、熱を帯びた柔らかなものが背中に触れた。煉の吐息が首筋にかかり、反射的に身体が反応してしまう。

「……っ!」

「……色っぽいな」

「な、なにしてるの! 早くファスナー閉めてよ!」

 まさか、こんな時に煉から悪戯(いたずら)をされるとは思わず、さくらは赤面しながら、恥ずかしさを隠すように抗議する。

「お前はこんな姿で結婚式に行くのか? やはり、もう少し地味なドレスにするべきだ」

 一向にファスナーを閉めようとしない煉に、さくらは怒りを込めて振り返り、睨み付けた。

「こんな姿で悪かったわね。これしか買ってないし、仕方ないじゃない」

「いや、そういう意味じゃない。他の男達の視線に晒すのが嫌だと言ってるんだ。お前は俺の女だろう」

「な! こ、こんな時に変なことを言わないでよ! ばか!」

「変なことは言っていない。事実だ」

 こうして、二人が無駄な言い争いをしている間にも時間は刻々と過ぎていき、マンションを出る頃には、既に挙式開始間近となっていた。

 ◇

「間に合ったな」

「……はあ、良かった。間に合って」

 ネクタイをさくらに結んで貰った煉は、飄々《ひょうひょう》とした態度で、結婚式会場を見渡す。

 さくらはといえば朝からドレスのファスナーが閉まらなかったり、煉に振り回されたりと、散々な状況だった為、会場に到着した時にはすでに疲労困憊気味だった。

 無事に挙式開始時間に間に合うことが出来た二人は、受付を済ませて、教会内の指定された席に着く。

 そして、ほっとしたのも束の間。さくらの親友、優の晴れやかな結婚式が始まった。

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