冷徹部長の溺愛の餌食になりました
見るとそれはまだホールにいるはずの久我さんで、その体がプールに入るとザバッと勢いのいい音とともに水しぶきがあがる。
え……なんで、久我さんが……?
驚き呆然とその姿を見つめる中、久我さんはザブザブと水中を歩きもぐる。
それを見て馳くんは「久我さん!?」と驚きながらも、すぐハッとした。
「あっ……俺タオル借りてきます!」
そして彼らしい気遣いを見せると、その場から去って行った。
ふたりきりのプールで、久我さんはまだ水中を探す。
「久我さん……いいです、大丈夫ですから!風邪ひいちゃうっ……」
必死に引き止めるけれど、久我さんはそれを無視して深い水中へ潜っていく。
そして少しして、久我さんがプールの中を歩きながらこちらへ向かってきた。
髪も服も、全身を水で濡らした彼が私の前に腕を差し出すと、その手にはネックレスが輝いていた。
「これだろ?」
それを受け取ると、ほんの少し触れた指はすっかり冷えてしまっている。
「なんで……そんな、わざわざ」
「霧崎が、『大事なもの』って言ってくれたから」
久我さんは、そっと笑って言った。
私がそう言ったから。プールに飛び込んで、全身を濡らしてまで、探しだしてくれたの?
なんで、どうして。
私は、彼の恋人でもない、ただの部下でしかないのに。
ずっと本当のことを隠していたのに。
その優しさに、嬉しさと苦しさが入り混じり、涙となってこみ上げた。