敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】
「華にピアノを聴かせる?稚拙すぎて恥ずかしいんだけど」

「少しだけ、聴きたいです」

「……わかったよ。華からのお願いだ。断るのももったいない」

そう言ってイスに座ると、恭介さんの顔つきがさっと変わるのがわかった。
そして、色気たっぷりの流し目で私を見つめてから弾き始めた。



ーエリック・サティ 〈ジュ・トゥ・ヴ〉ー



曲目がわかった途端、恥ずかしくなってしまった。


〝ジュ・トゥ・ヴ〟


〝あなたが欲しい〟

日本語ではそんなふうに訳される。

恭介さんの紡ぐ音色は、とてもあまくて優しかった。



弾き終わった恭介さんは、こちらを向いた。

「華、真っ赤になっちゃって、かわいい」

「こ、この曲……」

「もちろん、今の僕の気持ちそのままだよ」

そう言うと恭介さんは私に近づいて、ふわっと抱きしめた。

「早く僕を好きになって」

耳元で囁かれて、体がピクリと跳ねた。

「華、僕は君の味方だ。だから安心してあまえて」

しばらくそのまま抱きしめられていた。



「さあ、そろそろ寝ようか。明日は仕事だからね」

「は、はい。おやすみなさい」

「おやすみ」
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