敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】
翌日からも、帰宅して夕飯を作ると、恭介さんの帰りを待ちながらピアノを弾いていた。

水曜日


ーベートーベン 〈月光 第3楽章〉ー

迷いを振り切るように、細やかな動きに没頭していた。
もともとマイナス思考の強い私は、ふと、周りの優しさをそのまま受け取っていいのかなんて考えてしまった。


きっかけは、会社でたまたま、社長秘書の長谷川さんと恭介さんの会話を聞いてしまったから。


「社長、仕事を詰め込みすぎです。休憩はしっかり取ってください」

「大丈夫です。無理はしてません」

「ですが……」

「大丈夫です」

「わかりました。くれぐれも体調を崩されないように気をつけてくださいね」


きっと、無理な働き方をしてるのは私がここにいるせいだ。
恭介さんが無理をしてまで早く帰っているなんて、考えもしなかった。
それなのに、私は……



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