real face

繋ぎとめたい想い

──6月1日、帰宅後。

キスのせいで、私の心はざわざわと落ち着かない。
そりゃ私たち付き合っているんだから、そういうことがあっても不思議ではないのかもしれないけど。
家に帰ってからも頭がボーッとして、母から話しかけられる度にビクッとしてしまい、相当な挙動不審だったと思う。

そして私より少し後に帰ってきた新の様子も少し可笑しかった気がする。
妙によそよそしかったというか、私を見る目がなにか言いたげだったというか。
いつもの私なら、気になることを放ってはおけないのですぐに聞き出すところなんだけど。
頭の中が佐伯主任でいっぱいいっぱいな私は余裕がなくて、放置してしまっていた。

そう言えば、主任の口から信の名前が出てきたのも不思議な感じがしたけど…。
新と双子なんだってことまで言っておけばよかったのかな?
そのうち言う機会あるだろうから、焦らなくてもいいよね。
家族の話とか、するようになるのかな、私たち。


─6月2日。

今日は少し残業して、いつも通りに主任が家まで送ってくれた。
私の家の最寄り駅から歩く道中には、手を繋いでくれた主任。
手が温かく感じるのは、どちらの体温のせいなのか。

きっとどちらも。

主任もこの温もりを心地よいと感じてくれているんだろうか?
今日は"恋人繋ぎ"だし。
顔がひとりでにニヤケてしまいそう。

ついでに昨日のことが思い出されて、ひとり悶々としながら歩く。
手を繋ぐ前のあのキスが、1日経った今も鮮やかに甦ってくる。

次は、いつまたあの幸せな時間を過ごすことができるんだろうか。
主任もまた、私とキスしたいと思ってくれているのかな。

そんなフワフワした気持ちのまま、今日はあっさりと別れた。
まだやることがあるからと、会社に戻った主任。

「私も一緒に残ります」と言う提案も
「今日は1人で帰ります」という申告も
呆気なく「却下」されてしまった。

有無を言わさない彼の行動は、何も変わらない。
ちょっとした変化といえば、仕事以外の時間は、彼を包む空気が柔らかいと感じるようになった。

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