real face
私に気を許してくれていると思っていいのか。
私以外には見せない姿なんだろうと思うと、こそばゆい気持ちになる。

仕事中はビシッとしていて隙がないし、デキる男オーラが半端ない。
それに、見事なポーカーフェイスを決め込んでいるのに。

オンとオフを使い分けているようだ。

今までもそうだったのかもしれないけど、プライベートな時間を彼と過ごすことがほとんどなかったから。
これからは、もっと彼の違う一面を見れるようになるのかな?

どんどん彼のことが気になっていると実感する私。
いつから、こんなにも佐伯主任が気になっているんだろう。

一昨日のキスから?
それとも、最初の……?

もうこれは完璧に、恋に落ちてると言えるのかもしれない。


──6月3日。

「ほら、手を貸して」

駅の改札を出て、少し先を歩いていた佐伯主任が立ち止まり、私に向かって左手を差し出した。

これが、彼が仕事モードからプライベートモードに切り替わる瞬間なのだと思う。
そして私は周りをちょっと気にしながら、おずおずと右手を差し出す。
その手を取られ、素早く指を絡ませられた。
あまりの行動の早さに『遅い!』なんて怒られやしないかとビクビクしてしまうけど、主任はそんな私を見透かしたかのよう。

「なにビクついてんの?誰も見てないから心配すんな。そんな姿、仕事中に見られないから新鮮だけど」

「え……そう、ですか?」

それは私も感じていた。
仕事中にビクビクすることなんてないし、最近毎日のように主任が家まで送ってくれるようになって、どういう態度でいたらいいのかが分からなくて困ってる。
それが新鮮なの?

「ところで、修から連絡あった?」

「シュウにぃからでしたら、ありません。電話もメールも」

「そうか。変だな……」

だから、そんなにシュウにぃを気にする必要はないと思うんだけどな。
だけど、それを言ってしまうと、いましっかりと繋がれているこの手を離すことになりそうな気がして……何も言えなかった。

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