【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~

輝真の生活サイクルにあわせて、
眠れる時に仮眠をとりながらあっという間に今日も一日が終わろうとしてる。


夕方になるとチャイム音が部屋の中に響く。



チャイム音に驚いて泣きだしてしまった輝真をあやすアタシ、
玄関まで来客を出迎える三橋。




「お姉ちゃん」


そう言って姿を見せるのは、
12歳を迎えたばかりの星奈と陽奈。


二人の妹は洗面上で手洗いをした後に、
早々に輝真に近づいて頬をつついて『柔らかい』なんて、
ありきたりの感想を言いながら、輝真と遊び始めた。



あんなに距離を感じていた妹たちと、
こんな風にアタシの息子を祝福してく貰える日が来るなんて
あの頃には思わなかった。


アタシはずっと家から距離をとりながら生きていくんだと思ってたのに、
光輝はアタシとアタシの実家の関係を少しずつでも修復できるように、
動き続けてくれてる。


やっぱり……今も、母のことは好きにはなれないけど……
輝真が生まれて、少しは寄り添う努力も必要なのかもしれないなんて、
アタシの心の中でも進展があった。


だから今は、時折、子育ての先輩として母にアドバイスを求めるメールを
送ってみることもある。




「お姉ちゃん、これママからなの」


そう言って、鞄からいそいそと取り出してきたのは、
赤ちゃん用のベビー帽子。

毛糸で作られたベビー帽子には、犬とも猫ともいえぬ耳がついていた。



「ママ、ソファーで頑張って格闘してたのー」


そういう陽奈の言葉に、ちょっと想像できないアタシが存在しながら、
手渡されたそれを、輝真に被せて写メをとって送信してみる。




有難う




短い文章をのせて。



たったそれだけの事でも、
前のアタシだったら絶対にやらなかった。

光輝と暮らすようになって、
あんなに手放せなかったタバコも吸わなくてよくなった。


光輝がいつもアタシを満たしてくれているのが伝わるから。




妹たちと遊びながら過ごしているとガチャリとドアが開く音が聞こえる。
すると眠っていたと思っていた輝真が、元気に泣き始めた。


「おぉ、元気に泣いてるなー。

 ただいま、輝真」


そう言うとアタシの腕の中から輝真を抱き上げて
何度かトントンと体に触れると、
輝真のなきごえがピタリとやんだ。

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