婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
風を当てながら丁寧に少しずつの束を掴んで乾かしていく。
指が髪を梳いていくのが時折くすぐったくて、肩が小さく何度も震えた。
「……うん、乾いたかな」
「すみません、ありがとうございます」
ドライヤーの電源を抜いた貴晴さんは、私の掛けるとなりへと腰を下ろす。
「俺がやりたくてやってるんだから、いいんだよ」
乾いた頭をてっぺんから撫でて、垂れる髪に指を通す。
そうされるだけで、鼓動が途端に大きな音を立て始めた。
髪に感覚があるわけないのに、神経が通っているように彼の指の感触に敏感になっている。
貴晴さんの指は、私の髪を何度も何度もとかしていく。
「今日のお昼休み、外で里桜のこと見かけたよ。照井くんと一緒だったね」
「あ、はい。お昼に誘っていただいて……あ、でも、芳賀さんも一緒で、三人で行きました」
「そうだったんだ。てっきり、照井くんとふたりだと思ってたよ」
とんだ勘違いをされていて、ぶんぶんと顔を横に振る。
「まさか、そんなはず! 職場の方といえ、男性とふたりっきりで食事なんて、私はとても間が持ちませんし」
今日だって、もし芳賀さんが一緒に行くと言わなければ丁重にお断りしたに違いない。