365枚のラブレター
(クララside)
リーン リリリーン
お店に入ると
南部鉄器の風鈴の音が
心地よく響いた
「あら、バレンタインの時のクララちゃんね」
そう言って穏やかに微笑んだのは
和菓子屋のきぬさんだ
「これ・・・」
「水まんじゅうの無料券ね
今、お茶も入れるから召し上がっていって」
私は言われるがまま
ふかふかなソファに座った
「クララちゃん
何か辛いことがあったでしょ?」
「・・・・」
「実はね
美紅ちゃんからさっき電話があったの
クララちゃんの悲しみを
取り除いてあげて欲しい
私じゃ
何もしてあげられないからって。
泣きながらよ」
美紅さん・・・
本当に優しい人・・・
私のために一緒に悲しんでくれた人・・・
「美紅ちゃんもクララちゃんが大事なのね
何か辛いことがあるなら
話してごらんなさい」
私はきぬさんに
歩君のことが大好きで大好きで
歩君に幸せになってほしいのに
幸せな姿を見るのが辛いことを話した
別の高校に行くっていう嘘も添えた
「クララちゃんは歩君に伝えたの?
大好きだっていう思いを」
「いいえ・・・
他の男の子と付き合ってるって
嘘をついてます・・・」
「それはなぜ?」
「歩君は優しい人だから
私のことを気にして
その子と本気で付き合えないと思うから・・・」
「クララちゃん
あなたは人の気持ちを
汲み取ることができる優しい人ね
でも自分の本当の思いを伝えないと
いつか後悔するときがきっと来るわ
私みたいにね・・・」
「え?」
「私は主人に伝えておけば良かったって後悔が
山のようにあるの
子育てでイライラが募っている時期だったから
毎日のように主人に
心無い言葉を投げつてしまていたの
でもね
突然倒れてそのまま亡くなってしまったわ
隣にいてくれてありがとう
私たちを養ってくれてありがとう
子供達にいっぱいの愛情を
注いでくれてありがとう
私を選んでくれてありがとう
伝えたいありがとうがたくさんあったのに
ひどい言葉で傷つけてしまっていた
それを私ね
50年以上も引きずって生きてるのよ
クララちゃん、思いは言葉にしないと
相手に伝わらないからね
私みたいに、伝えておけばよかったって
後悔する人生は送ってほしくないわ」
「きぬ・・・さん・・・」
「クララちゃんは周りを幸せにできる人よ
だからクララちゃんも
絶対に幸せになれるから
自分の気持ちに正直にいきてごらんなさい」
「ありがとうございました
きぬさん、大好きです」
きっとこれが
きぬさんとのお別れだろう
私は水まんじゅうを味わうと
きぬさんに深々と頭を下げ
笑顔でお店を後にした
商店街を歩くのも
あと何回あるだろう・・・
私が消えるまで
あと1週間しかないしな・・・
歩君との思い出が詰まったこの商店街
何度手を繋いで
この道を歩いただろう・・・
会いたいな・・・
歩君に・・・
え?
あゆむ・・・くん・・・?
商店街から高校に続く交差点の角に
歩君が立っていた
「クララ・・・
話したいことがあるんだけど・・・いい?」
「う・・・うん」
私は歩君の2歩後ろを歩いてついていった
歩君は全くしゃべらない
この階段は・・・
私たちが出会った場所に続く
100段の階段・・・
言霊神社に着いてベンチに座ると
やっと歩君が口を開いた
「クララ・・・裏切ってごめんな」
「え?」
「ずっとクララと一緒にいるって誓ったのに
傷つけて・・・本当にごめん」
歩君はうつむきながら謝ってきた
「それは歩君だけのせいじゃないでしょ
私も人間界で生きるのにいっぱいいっぱいで
歩君といる時間を大切にできなかった
紗耶香さんを見ていたら
歩君のために何もしてあげてなかったなって
思い知らされたよ」
「そんなことない!
俺、クララのお陰で
花純のこと吹っ切れたし・・・
それに・・・」
「今思うとね
私、歩君と出会っちゃいけなかったんだって
思うよ」
「え?」
「私があの日
この風鈴の下で人間界の時間を
止め忘れなければ
歩君はもっと早くに
紗耶香さんと付き合えていたんだと思う
私はそれを邪魔したんだよ
きっと」
「そんなこと・・・・」
「それに、私に『ごめん』なんて思わないで
私だって琉生君のこと好きになって
歩君を裏切っていたんだから」
「・・・」
「最後に一つだけ、聞いてもいいかな?」
「何?」
「チャペルで指輪をくれた時
本当に私のこと好きだった?」
「ああ・・・大好きだったよ」
嬉しい!
歩君と微笑み合った時間は
嘘じゃなかったんだ!
「紗耶香さんと
今も付き合ってるんだよね?」
「ああ」
「なんかクララ、おかしくないか?
本当に琉生と付き合ってるんだよな?
永遠を誓うんだよな?
消えないよな?」
歩君の必死の顔、久々に見たよ
私のこと、心配してくれてるんだね
きちんと安心させてあげなきゃ
「大丈夫だよ!消えないよ!
歩君と話せて良かった
ずっとこうして話したかったから・・・
歩君・・・バイバイ・・・」
泣きたかった!
本当は大好きだって伝えたかった!
でも・・・
歩君の幸せを邪魔しちゃだめだ!
私は精いっぱいの笑顔で歩君にサヨナラした