【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
「どうぞ、乗って」
「一臣さんは?」
「俺は少し歩くことにする。酔いをさまさないと」
「気をつけてください。最近は物騒ですから」
私は彼が押さえているドアから、後部座席に乗りこんだ。
「一年間、ありがとう」
彼が身を屈め、車内の私に向かって言う。
「こちらこそ」
「引き続き、よろしく……と言うには不穏な空気が漂ってるが」
「笑いごとじゃありません」
「また来週。月曜に」
楽しそうに笑い、彼が身体を引く。それが合図になり、ドアが閉まった。
歩道の上の彼を、道路沿いの店の明かりが照らす。彼は片手をポケットに入れ、もう一方の手を振って私たちを見送った。
それぞれの家に帰るのだ。
お互いのいない家へ。

マンションに帰り、手を洗って部屋着に着替え、洗顔したあと、冷蔵庫を開けた。
以前までペットボトルのお茶やヨーグルトくらいしか入っていなかった冷蔵庫には、ささやかだが野菜や油揚げなどが入っている。
私はそれらを取り出し、ほんの少し刻んで小さな保存容器に入れ、冷蔵庫に戻した。明日の朝、手早くおみおつけにするのだ
私、こんな暮らしをするようになったんですよ、一臣さん。
続くかどうかわかりませんが、せっかくあなたが“自分に手をかける”ことを教えてくれたから。
劣等感にまみれて生きるくらいなら、できることからやればいいと教えてくれたから。やってみたら、案外できることがあると気づかせてくれたから。
“お嫁さんを夢見ているくせに、料理ひとつできず、中途半端な部屋で乾いた暮らしをしている私”を捨てようと思って。
それができたら、きっと胸を張ることができる。ほかのだれでもない、私自身に対して。
そして、彼との結婚というわがままを、許してほしいと母に言える気がする。
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