【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
気づけばそれなりの時間だ。今から行っても、終電で帰ることを考えたら、かなり慌ただしい。
腕時計を覆い隠すように、一臣さんが私の手首を握る。
「朝まで、という意味だ」
握られた手首を見下ろしたまま、私は言葉を失ってしまった。そんな私を見つめ、一臣さんが苦笑したのがわかる。
「それぞれの部屋でって意味ではないよ、言っておくが」
「はい……」
「気が乗らなければ、また次の機会に」
私の気持ちを軽くしようとしてくれている。
どくん、どくん。握られた手首が脈を打つ。
つまり……、そういうことだ。幼稚な私が今まで目をそらしていた部分。
あまりに自分と縁遠く、非現実的だから、心の奥底にしまいこんで、見ないふりをしていた。
“お嫁さんになりたい”。
その夢に、付随しないわけがないものなのに。
なかなか反応しないせいか、一臣さんが気づかわしげに私の顔をのぞきこんだ。
「すまない、花恋、そんなに迷うようなら……」
「行きます」
今度は彼がぽかんとした。
あなたが教えてくれたんです、一臣さん。
どうせ自分には、と目をそむけるのをやめること。気持ちに素直になって、飛びこむこと。
私は実行します。
「私も一緒にいたいです。朝まで」
「花恋……」
「ですがその、私はうまく、ええと、役目を果たせるかわかりませんが」
とはいえ意気ごみだけで経験不足はカバーできない。迷惑をかけるかもしれないと今さら恐縮すると、一臣さんがふわっと微笑んだ。
優しい微笑みに見とれているうちに抱きしめられ、その腕にゆっくりと力がこもっていくのを、全身で感じる。
耳のすぐそばで、「ありがとう」とため息みたいな彼の声がした。
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