【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
「諏訪さん……」
「気になる商品や店はないか? ちゃんと見て。威圧的なブランドばかりじゃない。きみの好きそうなものだって、あるじゃないか、ほら」
彼が指さしたのは、アンティークのブローチみたいな容器に入った、色とりどりのアイシャドウだった。いや、もしかしたらアイシャドウではないのかもしれない。よくわからない。
顔を上げて、店舗全体を眺めてみた。マカロンみたいな彩りが広がっていた。クリーム色、ペールトーンのブルー、ピンク、グリーン、パープル。どこもかしこも優美な曲線を描き、そして金で縁取られている!
口を開けて見回すうち、視界の端に脅威が映りこんだ。
「チークでおさがしですか?」
逃げ出そうとした私の手を、諏訪さんがぐっと握る。
「彼女に似合いそうなものを、一式選んでください」
「かしこまりました! ご案内しますので、こちらへどうぞ」
真っ白な肌に、明るめにした髪をきゅっと結いあげ、完璧なメイクをした女性が元気な足取りでカウンターに案内してくれる。
売り上げで見ればどう考えても上客だ、元気にもなるだろう。
だけど意欲という点では、私は最低の客だ。
諏訪さんが引いてくれたスツールに座ろうとして、目の前に置いてある鏡に気づき、無意識に身体がきびすを返した。
「こら、逃げるな」
「自己肯定感の塊みたいな方の前で、鏡の中の自分と対峙させられるのは、耐えがたいです」
「試すのがいやなら、試さなければいいよ」
「そんなことができるんですか?」
カウンターの中の引き出しをあれこれ探っていた店員さんが、グレーの革のトレーの上に、いくつも商品を乗せて戻ってきた。
「お顔にいろいろつけるのはお好きじゃないかなと思い、ベースメイクは軽いものを選んでみました。よろしかったら、お試しになっていきませんか?」
ひっ、と委縮したとき、カウンターの下で、諏訪さんが再び私の手を握る。
「時間がないので」
「では、ファンデーションだけ色味を合わせたいので、失礼しますね」
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