【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
はやめに打ちあわせに行くつもりなんだろう、彼がデスクのPCを閉じ、立ち上がった。すぐ横にいた私は、20センチほど上から見下ろされる形になる。
「特には。いつもどおり、18時までは会社にいます」
「よかった。定時後、少しだけ僕に時間をくれ」
「承知しました」
「それと、今日は昼も休んでないだろ。今から1時間、絶対に連絡しないようにするから、休憩するといい」
出力で私の背中を軽く叩き、彼が出ていく。
昼休み中も資料づくりに追われていたことを、なぜ知っているんだろう。席にはいなかったはずなのに。
これだから、報われてしまうのだ。
お言葉に甘えることにして席に戻り、デスクのキャビネットから保温ボトルを取り出す。ふたを開けると、ハーブティの癒される香りが湯気と一緒に私を包む。
朝から頭を離れずにいる文章を、また脳内で引っ張り出した。
『9月に28歳になりました。この年齢がどういった印象を与えるかは承知しているつもりです。しかしながら私がこの世に生を受けて28年という月日が過ぎたというのはネガティブでもポジティブでもない、純然たる事実で……』

諏訪さんは定時を少し過ぎてから戻ってきた。
私を待たせていると思ったんだろう、「ごめん」と息を切らしてガラスエリアに入ってくる。それから慎重な仕草でガラスドアを閉めた。
普段は開け放たれていて、めったに閉めないドアだ。閉めると、丸見えではあるものの、話し声は遮断される。
びっくりして見守る私に、彼がにやっと笑いかけた。
「プライベートの話をしたい。まだ時間は大丈夫?」
「はい」
プライベートの話だって?
ついに彼も私を秘書として扱うことにしたのかもしれない。たとえば恋人へのプレゼントを選んでくれとか、そういう指令だろうか。
いや……、私にそんなセンスがないことくらい彼も知っているはず。
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