北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 わたしのことを、つるこちゃんの生まれ変わりだの取りつかれてるだの言ったけど、本人のほうがよほど猫っぽい。憑依されてる。
 その想像は、身体に滞っていた重りが抜けていくくらい、とても心地よかった。
 初めて目が合ったとき、なんだかぞわぞわしたのはそのせいだったりして。
 口元に笑みをにじませたまま、凛乃は立ち上がって明かりを消した。真っ暗になった部屋から廊下を覗くと、2階はどこもかしこも一筋の光もなかった。
 累さん、もう寝たかな。
 横になって、ソバ殻の中身を整える。
 子供のころ、いとこの家に泊まりにいったときはいつも、夜に布団の中へ猫が潜り込んできてくれるのを待っていた。気まぐれな彼らに選ばれると、認められているようで誇らしかった。
 猫相手なら、もう少しここに居てもいいかもしれない。もう少しだけ、期待してもいいのかな。
 ふわふわしてあたたかい眠りが、間もなくやってきた。
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