北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 段取りもシミュレーションもムダにして勢いだけで吐露した告白が笑い飛ばされてから、累は凛乃ともっと関わる機会をうかがっていた。部屋の整理に乱入したり、料理を手伝おうとすれば、すぐに追い払われてしまう。
 仕事の領分を侵食されるのが気に入らないなら、あとは、プライベートの時間に食い込むしかない。凛乃が暑さと日差しを避けるために、曇天か夕方を選んで外出するパターンをつかんだのが、昨日だ。
 そういえば、佐佑がやたらおれを誘い出してた時期があった。ばあちゃんが死んだあとだ。
 累が起きていると知るや外に連れ出そうとする言い訳は、ピザ窯を作るだの、スマートフォンのプラン変更をするだの、本来はつきあわなきゃならないような用じゃなかった。
 でも不承不承出かけるうちにいつのまにか、仕事先で「大丈夫?」と心配されることがなくなっていた。
 凛乃が楽しそうなのを見るのが楽しい。それだけのことで、自信のなさが癒されてゆく。
「お客様は細身でも鍛えていらっしゃるから、そのラインを活かすようなシルエットはこちらなど」
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