北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 心の寝癖アルバムに加えるべきうしろ姿をそっと胸にしまってから、こたつテーブルを挟んで座った累のまえに、丸いドーム型に盛ったレタスカニチャーハンと小松菜のスープを置いた。いっしょに食べない残りの一食をコンビニ弁当かインスタント食品で済ませているらしい累だから、これから寝るにせよ、起き抜けにせよ、ちょっとでも食べ応えを感じてもらいたい。
「いただきます」
「いただきます。さっき、瀬戸さんが梨を置いてってくれてました。夕飯のあとに冷えたのを出しますね」
 累はうなずいたけど、眉根が寄っている。
「……なんで梨?」
 どうやら、数ある果物のなかでよりによって梨を差し入れされたというのを、疑っているらしい。
「奥さんがつわりで梨が食べたくなくなっちゃって、夜、買いに走ったらしいです。でもたくさんありすぎて、腐らせるよりはって」
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