北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 これは事実だ。でもポストに別個に「累もむかしから好きだったから食べさせてやって!」というメモも入っていたことは言わない。正直に言ったら食べないに決まってる。
「そうだ、こないだ買い取ってもらえなかった分のとめ子さんの着物なんですけど、今度は和小物を作ってる作家さんに当たってみようと思います。端切れとか古布の扱いになるけど、わりと需要はあるみたいです」
「そう」
「振袖は、もうちょっと考えてみます。お母さんの着物は1枚しかないし、いまでも通用するポップでかわいい柄だから、なんとか手元で活用できないかなって思うんですよね」
「維盛さんが着れば?」
 口いっぱいにチャーハンを含みながら、累が言う。
「せーじんしきの着物ですよ?! わたしの歳、知ってますよね?」
 怒って見せたけど、累がもぐもぐしながらちょっと笑っていて、つられて笑ってしまった。
「パソコン、問題ない?」
 問われて、凛乃は大きくうなずいた。
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