甘やかされ婚~年上の旦那様は、獣な本性を隠している~
「落っことしたりしないから、安心して」


私のすぐ耳元で、蓮君がクスッと笑う。


「朝ご飯、用意してたんだけど。その分じゃ、食べながら寝ちゃいそうだね」


そう呟く形のいい薄い唇が、すぐ目の前にある。


「ご、ごめん」


夜食に続いて、朝食まで無駄にさせてしまった……。
申し訳ない思いでいっぱいだけど、蓮君の顔が近いせいでドキドキしてしまい、私はそっと顔を俯かせた。
彼は、「ううん」と気にする様子もなく返してくれる。


「とりあえず、今はゆっくり眠って。目が覚めた時、なにか作ってあげるから」


蓮君は私をお姫様抱っこしたまま、廊下の奥に進んでいく。
二十畳近くある広いリビングを突っ切って、その奥にある寝室のドアを、「よっ」と言いながら肩で押し開けた。


「今夜も、深夜勤だろ? 今は、ゆっくり休んで」


優しく声をかけながら、私をベッドに横たわらせてくれる。


「……ん」


ほどよく跳ねるベッドのスプリングが、とても心地いい。
夜間の激務で疲れ切った身体は、底なし沼に沈んでいくよう。
猛烈な眠気に抗えず、私は素直に頷いた。


「お休み、真由」


ベッドから離れて行く彼の声を、最後まで聞き遂げる前に、目蓋が勝手に閉じてしまう。
パタンと、小さな音を立てて、寝室のドアが閉まった時には、私は睡魔に引き摺り込まれていた。
< 8 / 27 >

この作品をシェア

pagetop