シュガーレスでお願いします!
「うわっ」
「比呂先生、待って」
強風のせいで思わず足をとめるのとほぼ同時に有馬さんに右腕を掴まれ、私は何事かと首を傾げた。
ゴミが入ってしまった目をゴシゴシと擦りながら有馬さんの顔を見上げれば、彼はこれまで見たことがないほど真剣な眼差しで私を見つめていた。
「そろそろ、例の返事を聞かせて欲しい」
「何のこと?」
「まさか……俺が最初になんて言って比呂先生に声を掛けたか忘れたの?」
信じられないと有馬さんは失望を隠そうともしなかった。
「忘れたわけじゃないけど……」
今日こそは返事をもらうと決めている彼の強固な決意を感じて、衝突を避けるようにうつむく。
意図せずすっとぼける形になってしまったが、忘れていたわけではない。
忘れるわけない。到底忘れられるものではない。
有馬さんとの関係が妙に心地よくて意識的に考えるのを避けていただけだ。
結婚して欲しいっていうのはナンパのための方便だとばかり思っていたのに。
まさか、あのプロポーズが本気だったとは……。