シュガーレスでお願いします!

被害届を出せば警察によって捜査が行われ、逮捕、勾留、起訴と手続きが進んでいき、ゆくゆくは刑事裁判となる。

彼の場合は事前に私に対する嫌がらせを警察に相談していたこともあり、不起訴処分になるとは考えにくい。まともな企業なら逮捕された時点で懲戒解雇されてもおかしくない。

つまり、葛西さんの旦那さんの処遇について、社会的な生殺与奪権は被害者側であるこちらが手にしている。煮るなり焼くなりお好きにどうぞってなものだ。

「慶太……夫は『比呂に任せる』と言ってくれています」

怪我をしたのは自分なのに、慶太はあくまでも私の意思を尊重しようとしてくれている。

大事な選択を委ねられ、どうするべきか決めかねて自分自身を抱き締める。

私を信頼してくれる慶太のためにも、選択を間違えたくはない。

でも……。

「私、正直あの人のこと許せません。弁護士として、慶太の妻として、あの人に然るべき制裁を与えてやりたい……。でも、この気持ちって葛西さんの担当弁護士としては間違ってますよね?」

相反する想いがせめぎ合い、私の思考を鈍らせる。

数時間前に一時の感情に振り回されることの愚かさを、葛西さんの旦那さんに説いていたとはとても思えない。

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