シュガーレスでお願いします!
「もしかして、慶太と何かあった?」
「なんでわかるんですか?」
そう尋ねると大輔さんはおもむろにショーケースからキャラメルがかかった四角いケーキを銀トレイの上に2つ取り出した。
上からムース、スポンジ、プラリネ、下はタルト生地と4層構造のケーキは真横から見ると地層のように綺麗な断面をしていた。
「これと、これ。どちらも同じケーキだけど、スポンジのキメが右側の方が若干荒いだろう?」
「そう……ですか?」
よーく目を凝らしてみたが、私には全く同じケーキにしか見えない。
素人には分からないが、そこには卓越した職人のみが分かる微細な違いがあるのだろう。
「左側は俺が作ったやつで、右側は慶太が作ったやつ。あいつ、精神面がケーキの味に出るパティシエとしては一番ダメなタイプだから」
大輔さんはふんと鼻を鳴らし憤慨すると、2つのケーキを丁寧に白箱に入れた。
一番ダメなタイプとダメ出しができるのは親友であるが故だ。
天才パティシエ有馬慶太にも弱点があったのかと意外に思う。
「昔は、こういうことよくあったんだ。あまりにひどいときは厨房から追い出したけどね。あいつ、結構繊細なんだ。比呂先生と付き合いだしたあたりから、なくなったと思ったんだけどな……」
大輔さんの話で、長い間疑問に思っていたことにようやく解決した。
なるほど、初めて出会ったあの日、オーナーパティシエの慶太が店頭で接客していたのはそういう理由だったのか。