君への愛は嘘で紡ぐ
「……わかりました」


その笑みに不満を抱いたが、それを言葉にできず、私は笠木さんに指示された場所に車椅子を取りに行った。


「本当、ごめん」


車椅子を押し歩いていたら、笠木さんはまた謝った。


「……謝らないでください」


私が聞きたいのは、謝罪の言葉ではない。


「じゃあ……ありがとな、お嬢様」


笠木さんは私を見上げて笑った。


これだ。
私が好きな、笠木さんの笑顔。


私を喜ばせたり悲しませたりと感情を動かすのは、笠木さんしかいないのかもしれない。


「あの……歩けなくなることがあるのに、どうして車椅子を使っていなかったのですか?」
「歩いてたら、生きてるって感じがするんだよ」


それを聞いて、私はとんでもない勘違いをしていたことに気付いた。


笠木さんはきっと、死を受け入れてはいない。


「自分の足で歩いて、入院してる人に会う。それが今の俺の日常」


笠木さんはときどき私のほうを見上げてくれる。


「笠木さんは、今も昔も人がお好きなのですね」


難しい顔をして前を向いてしまった。


「どうだろう。昔は、誰かに必要とされることで、生きてていいんだって思ってただけだし……今は、気を紛らわすために誰かと話してるだけだし」
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