揺れる被写体〜もっと強く愛して〜
「ゆっくり…見てってね?」
「あっ……!」
行かないで…と手を掴まれる。
周りの目を気にしてか、ぎこちなく手を離した。
「駿くん…?こんなこと言いたくないんだけど……もう忘れてくれていいからね?縛りつけてごめんね…今日だけは私からのささやかな恩返しだから最後まで見てくれると嬉しい、かな」
これが、最後の会話かもって俯いたら「それ本音なの?」との声にまた顔を上げる。
「俺はもう限界……何も手に付かなくて……辛い。美麗が頭から離れなくておかしくなりそう…」
髪をクシャッとしながら揺れる瞳。
「俺が一緒に居ちゃダメなの?俺が幸せにしちゃダメなの?俺から動いたらダメ?俺から意思表示しちゃダメなのかよ…!」
少し取り乱す駿くんに周りも無視出来ない空気に。
遠くに記者だって居る。
「駿くん、ちょっと落ち着こうか……皆見てるよ?」
「関係ないよ……こっちの方が大事!」
完全に顔バレしてしまった駿くんに「いいの?」と尋ねる。
「俺なりの…覚悟は決めてる」
「覚悟……か。大丈夫?事務所的に?」
「美麗を失う方が怖いよ……」
まるで周りなんか見えてない、真っすぐ見据える瞳に心が揺れる。
まんまと取り乱さないでよ………
こっちも準備してるのに。
「何も手に付かなくなったんだ…?」
「うん……」
「そっか……じゃあ私も限界かな?覚悟、決めてみようかな」
「え……?」