揺れる被写体〜もっと強く愛して〜
「え〜じゃあ彼氏は?居ないの?うわ、ゴージャス!」
「フォワードとリバース巻きのミックスにしてみました」
「いつもありがとうー」
ようやく被写体さんのスタンバイです。
特に時間がかかってたわけじゃないけど何か居心地悪くて長く感じてしまった。
ていうか肝心な彼氏の有無は聞けなかったし。
無事に撮影は終了し、片付けと明日の準備をしていたら……
カメラを覗いて調節してると背後から
「何してるんですか?」と聞こえてビクッとした。
「びっくりした……ビビらすなよ」
「すみません」
「明日の準備」
「私も覗いていいですか?」
「え、あ……うん、いいよ」
片目を閉じて覗いてる。
「ここでピントを調節するんだ」
覗いたまま教えたら
「え?どこでですか?」って顔を上げる。
「これは?」
「連写って?」
「戻す時は?」
次から次へと質問されて
いつの間にか俺が講師になってた。
ていうか本当に興味あるっぽい。
質問もマニアックだ。
「趣味として始めるのも楽しいよ、一眼レフは」
「じゃあ、上川さんが教えてください」
「え……?」
真っすぐな視線にまたハマってしまう。
「素質があるか見極めてください……才能がないならないでキッパリ諦めます」
「えっと……俺が?そんな、教えられる人間じゃないし」
「写真集、出されてますよね?見ました」
「えっ!?あ、そう……」
ヤバいぞ、この展開は。
断る理由が見つからない…!
「29ページのあの夕焼け……」
え………!?
ページまで覚えてるの!?
確かに香川県の父母ヶ浜で撮った記憶はある。
その夕焼けのことを言ってくれてるのかな。
「あのアングルが私は好きです……まるで絵画のようだった」
そう話してくれた最後に天使のように微笑むから……
「私もあんなふうに撮ってみたい」って言ってくれたから……
迷いなんて吹っ飛んで、
「俺でいいなら教えるよ」と口からこぼれ落ちていた。