揺れる被写体〜もっと強く愛して〜



グスッ…って泣いてる声。
えっ…!?
チラッと見てしまった。
長い廊下の奥の長椅子。
話を聞いてあげてる彼女の後ろ姿。
やっぱり泣いてるのはあの男?




ハンカチを渡してひたすら髪を撫でてあげてる。
仕事で何かミスったか、自信をなくしたか。
「僕、どうしよう…もう仕事出来ない」ってそればっか聞こえてる。




「キョウちゃん、きっとどの世界にも理不尽なことってあるんだよ。だから愚痴ったっていい、文句言ったっていい。でも誰が何を言おうと、私はキョウちゃんの凄さ知ってるから。メイクも仕事に対する姿勢も尊敬してる。だから辞めないで?言ったでしょ?私がキョウちゃんの一番弟子だって」




優しく諭すように不安を取り除いてあげてる姿勢に何だかモヤモヤした。
「レイ〜」と情けない声で泣きじゃくる男。
何なんだよ、今どきの若僧は。
か弱すぎんだろ。




「僕……レイのこと好きになりそう」




なぬっ!?
お前、それはないだろ。
泣きじゃくる男なんてアウトだ!




「アハハ、いいよ〜?好きになっても」




え、ウソだろ………
もう一度チラッと覗いてみる。
ハンカチで涙を拭ってあげてて……




「レイは僕のこと好き…?」




拭った手がまた髪に触れて……




「好きだよ……」




おい………男に対してはあれだけ冷たい態度取ってきたんじゃねぇのかよ。
ちょっと待て………
じゃあやっぱ、その男は特別な存在ってことなのか……?
ていうか誰だよ。
同じヘアメイク…だよな?
一番弟子だって言ってたし。





「僕もレイが好きぃ……2番目に」




な、なにー!?
今、何て言った?アイツ……




「アハハ…!正直で宜しい」




あんな酷いこと言われて笑えるか?普通。
「いいよ、2番目でも」と言って男を抱きしめてる。
髪を撫でながらヨシヨシってお前……
マジか………







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