想われて・・・オフィスで始まるSecret Lovestory
「どっちがいいですか?」

両手を上げて目の高さに差し出されたのは、缶のコーヒーとミルクティーだった。

「あ、ええと、じゃあ紅茶のほうで」

「すみません、寒いとこに呼び出しちゃって」

「いえ…」
手渡されたホット飲料の缶を、ホカロンがわりに握りしめる。

直斗さんがコーヒーのプルタブを開けて、一口すする。

「もうじき発表になるでしょうけど、栗原さんにはその前に伝えておきたくて」
彼の表情と口調からは、なにも読み取れない。
「僕、会社を離れることになったんです」

ガンッ、と殴られるような衝撃に襲われる。
「どうして…」ぽつりとそれだけが口からこぼれる。

「退職、じゃなくて無期限休職扱いにしてくれることになりました。フェローシップ(研究奨学金)を受けて、ミラノの大学院で二年間デザインを学んできます。審査を兼ねた社内コンペに合格して、口頭試問の結果が先日出まして」

「ひょっとして、あの、うずまきハウス…」
いつぞや見せてもらった設計図。心惹かれたユニークなデザインの設計者は、直斗さんだった。

「栗原さんも見てくれたんだ。僕の応募作です」
ふわりと笑む。
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