想われて・・・オフィスで始まるSecret Lovestory
「引き継ぎやら、ビザの申請やら、この先やらなきゃいけないことが山積みなんですけど。来年の四月には向こうに発つ予定です」

そんな、と思わず駄々っ子のように言いそうになる。

「栗原さん、一緒に来てくれませんか?」

「えっ!?」
その言葉に思わず彼をまじまじと見つめてしまう。

「院には語学から学べるコースもある。栗原さんの感性と発想力は佐倉さんのお墨付きです。創造性を重視するミラノの大学院で学ぶことで、きっと花開くと思います」

「でも、それは、わたし…」

「僕からのプロポーズ、と受け取ってもらえれば」

「直斗さん…」
うろたえることしかできない。

「ゆっくり考えてください。そんな泣きそうな顔をさせたいわけじゃない」

彼にそう言われて、思わず自分の頬に手を当てる。そんな表情をしているのか、わたしは。

優雅ともいえる仕草で一揖(いちゆう)すると、直斗さんは背を向けて去ってゆく。

わたしは寒さも忘れて、しばらくその場に立ち尽くしていた。
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