切愛願望~極上御曹司の庇護欲からは逃げられない~
「すみません!」
彼女は謝るが、俺に気づくことはなく、あたふたしながら資料を拾い集める。
俺も資料をいくつか拾い上げ、美月ちゃんに差し出した。
「あっ、ありがとうございま……す?」
礼を言って顔を上げる彼女。
ここでやっと目が合ったが、美月ちゃんはお月様のように目を丸くして俺を見ていた。
これは相当驚いているな。
"どうして俺がここにいる?"って顔をしている。
『美月ちゃん』と名前を呼ぼうかと思ったが、止めた。
この様子だと、俺がここの専務だと知ったら腰を抜かすだろう。
もうしばらく内緒にしておくか。
「気をつけて」
他人振りをして彼女に微笑むと、そのままスタスタ歩いてエレベーターに向かう。
だが、背中に美月ちゃんの視線を強く感じた。
エレベーターを待っていると、横にいた斗真が俺の顔をじっと見る。
また、親父とのことで何か言うつもりなのかと思ったが違った。
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