期間限定『ウソ恋ごっこ』
「ちょっと先輩! どさくさに紛れて美空に殺し文句を(ささや)くのやめてください!」


こめかみに青筋を立てて怒る真央ちゃんに、先輩が怪訝そうな顔をする。


「なにが殺し文句だよ? はなさないから落ちる心配はない、って言っただけだぞ?」


「その、『はなさない』の部分が意味深なんですよ!」


「じゃあ、はなせばいいのか? 落ちるぞ?」


「「はなさないで!」」


真央ちゃんとあたしが同時に叫ぶと、先輩は肩をすくめた。


「いいのか悪いのか、どっちなんだよ。とにかくこのままエレベーターで保健室まで行くぞ」


先輩はあたしを抱きかかえたまま足を速める。


文句を言い続けていた真央ちゃんも、近藤先輩がまるで動じないのを見て諦めたようだ。


結局あたしは、保健室に着くまでずーっと抱っこ状態。


もう、恥ずかしくてたまんない。因縁深い黒鳥にお姫様抱っこされるとか、こんな状況すごく不本意だ。


だから、こんなに胸がドキドキしてるんだ。とても混乱しているから。


このドキドキの理由は、きっとそうなんだ。


あたしはそんなふうに自分に言い聞かせながら、先輩の顔を直視できずに、ひたすら下を向いてモジモジし続けていた。









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