あなどれないね、世唯くん。



初めて触れた……癖がまったくない、黒いサラサラの髪。

かすかに鼻をくすぐる、甘いムスクの匂い。


千景くんの……何もかもに夢中になって、トリコになっている自分がいた。


今日が終われば……もう千景くんとこうやって2人でいることも、話すことも、触れることもなくなる…のかな。


それを考えただけで、胸がもやっとして、今日限りで終わりにしたくないって思った…。


「ち、かげ……くん……っ」


小さくて、消えそうな声で名前を呼ぶと


不意に髪に触れていた手が千景くんによってつかまれた。


一瞬、起きているのかと思った。


だけど、違った。


だって……。



「━━━━加……奈……」



かすかに空気を揺らしたその声は、


わたしの名前を呼ばなかったから。

< 37 / 339 >

この作品をシェア

pagetop