あなどれないね、世唯くん。
初めて触れた……癖がまったくない、黒いサラサラの髪。
かすかに鼻をくすぐる、甘いムスクの匂い。
千景くんの……何もかもに夢中になって、トリコになっている自分がいた。
今日が終われば……もう千景くんとこうやって2人でいることも、話すことも、触れることもなくなる…のかな。
それを考えただけで、胸がもやっとして、今日限りで終わりにしたくないって思った…。
「ち、かげ……くん……っ」
小さくて、消えそうな声で名前を呼ぶと
不意に髪に触れていた手が千景くんによってつかまれた。
一瞬、起きているのかと思った。
だけど、違った。
だって……。
「━━━━加……奈……」
かすかに空気を揺らしたその声は、
わたしの名前を呼ばなかったから。