卑劣恋愛
「武……なんで……?」


掠れた声でそう聞いた時、千恵美が武に胸を触らされているのが見えた。


「ちょっと……なにしてんの!?」


「なにって、武にもご褒美をあげてるだけだよ?」


武はまるで犬のように千恵美に縋り付き、胸に顔をうずめはじめた。


「あたしの前でそんなことして、許されると思ってんの!?」


「思ったよりもまだまだ元気そうだね? よかったー。ノドカに簡単に死なれたらつまんないもんね?」


千恵美はそう言って武の体を押し戻した。


「千恵美、もうちょっと……」


「ダメ。ご褒美は30秒だけって約束でしょ」


千恵美にピシャリと言われた武は本物の犬のように落ち込んでいる。


すっかり飼いならされている武に愕然としてしまう。


「武目を覚ましてよ! 千恵美は武のことなんて好きじゃないんだよ!? 家に戻れば智樹となにをしてるかわかんないんだよ!?」


叫んでみても、やはりあたしの言葉は武に届かない。


武はジッと千恵美を見つめているだけだった。
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