卑劣恋愛
あたしは大きく舌打ちをして智樹を睨み付けた。


「あたし、もう行かないと」


そう言って立ち去ろうとしたのに、智樹に腕を掴まれていた。


すぐに振りほどこうとしたけれど、痛いくらいに捕まれてしまって立ち止まった。


見た目に反して、結構力が強いみたいだ。


「なによ! 離して!」


「武はお前を見ていない」


「はぁ!?」


まだそんなわけのわからないことを言うつもりだろうか。


「大声で悲鳴を上げてもいいの? 智樹に乱暴されたって言うけど?」


そう言うと、智樹は一瞬ひるんだ様子を見せた。


しかし、手の力は緩めない。


早くしないと練習が始まってしまう!


「武が好きなのは、千恵美だ」


智樹の言葉にあたしの頭はまた真っ白になった。

< 59 / 262 >

この作品をシェア

pagetop