卑劣恋愛
捕まれている手首が痛くて、どんどん熱を持ってくるのを感じる。


「まだ……そんなこと言うんだ?」


なにか言い返そうとして口を開いたのに、あたしの声は震えていた。


怒りからなのか、絶望からなのかわからない。


「でも、千恵美は武を見ていない。だから……俺がノドカに協力してやることもできる」


「協力……?」


あたしはふと我に返ったような気分だった。


智樹はあたしに危害を加えるつもりはないみたいだ。


そう思うと、一気に肩の力が抜けた。


「あぁ。でもそのためには、武はノドカのことを好きじゃないと、ちゃんと認めることだ」


智樹の言葉が頭の中でこだまする。


強い風が吹き抜けて行って、今までの幸せまで吹き飛ばして行く。
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