とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「美里」

「私が、あの時、華怜の髪にガムをつけたの。しなきゃ、私も虐めるからって言われて、怖くて。華怜なら、それぐらいで泣いたりしないからって」

「えーっとちょっと待って」

「私、委員長もしてたしあの後、一矢くんは悪くないって、イジメの主犯達が言ったのに誰も大人は取り合ってくれなくて」

「落ち着いてってば。それは、美里が私と仲よかったからよね。巻き込んじゃってごめんね。それをずっと気にしてたの?」

遥か彼方の昔話を言われて、そこまで号泣されても困る。

謝ったところで戻れないしなあ。

過去を振り返ったって、やり直せる場面はない。

 人は嫌な思い出は、楽しかった思い出より心に傷として蔓延ってしまうらしい。

 私も前後の思い出は消えてしまっても覚えている。

 後ろから髪を掴まれ、振り返った瞬間、ジョキっとハサミの先端が目の前に飛び込んできた。

 床に散らばる私の髪、カズくんが掴んでいる指の中の髪。

 そして大きく悲鳴を上げる、女子たち。

 そこだけは映画のワンシーンのように今も鮮明に覚えている。
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