とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
最寄りの駅まで来ていたんだろう。

15分もせずに一階のインターフォンが鳴った。

私が好きなケーキ屋の箱をぶら下げて、世界の終わりかのような暗い顔で美里が立っている。

「突然ごめんね。私、どうしても謝らないといけないことがあって」

こんな時間にケーキ屋なんて開いていたんだと、内心関心しつつ、紅茶を淹れた。

美里は、県立図書館で図書司書として働いている。黒縁眼鏡に長く艶やかな髪、ブラウスにロングスカートと、見た目からして大人しく知的で一緒に並んでいても私より年上に見える。

私は、ショートカットをショコラブラウンに染め、ピンク色のパンツスーツに白鳥さんにデコってもらった派手なネイル。落ち着いた美里と未だに落ち着きのない私は正反対。

しかも職業柄か、何も手入れしていない美里の爪を保護したくてたまらない。

「その、許してもらえるわけじゃないけど。でも私はずっと貴女と友達でいたくて」

「何? そんなかしこまらないでよ」

「華怜がそんな風に髪も伸ばせなくなっちゃった原因」

「ああ……。そんなことか。美里は何も気にすることないでしょ。私、この髪、楽で気に入ってるし」

やだなあって笑いながら、美里が持って来たシュークリームをお皿において目の前に出す。

けれど美里は歯を食いしばって泣いていて、声を殺していたのでシュークリームを持ったまま固まってしまった。

< 9 / 205 >

この作品をシェア

pagetop