とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
しまった。妊娠している紗矢さんに心配させるようなことを言うべきではなかったかな。

「私の勘違いかな。あはは。ほら、うちの祖父って消費家だからさあ」

「でもとても倹約家でもありますよ。それにまた新しい医院を作るからと一括でお支払いいただいてますし」

「……え?」

「従兄弟さん、駅三つ向こうで起業することになったからと、お爺様がお支払いされていましたよ」

えーっと。

「でも海外の最新医療機器を大量購入したためにお金がないって話だったのに」

「それって数年前の話ですよね。とっくに全て綺麗にされてるはずです」

えーっと。

なんだろう。話がかみ合わない。

お互い、同じ名前の違う人の話をしているような。

プライドの高い母が、私に縋りつくぐらい経営が傾いてるって話だったはず。

「あ、喬一さんがエントランスに来たみたいです」

携帯画面を見て幸せそうに微笑む紗矢さんを見たら、これ以上は突っ込まない方がいいかなと口を閉じだ。

妊娠中の人に、いくら偽装とはいえ義姉の実家が経営傾いてて改装費払えずに全て一矢さんが払ったと知ったら驚くだろうし。

「あの、旦那様もよかったら上がってください。まだ紗矢さん、顔色が優れないし」
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