とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「なんでもどうぞ」

ふわわんって効果音が付きそうなほど優しい笑顔。

裏表なくこの人は穏やかな性格なのかなって思う。だからちょっと胸が痛んだけど、カマをかけてみたいと思ったんだ。

「うちの祖父や母がご迷惑をかけてないかなと。私は病院勤務じゃないし全く関係ない仕事だから紗矢さんたちとは関りがないから、普段のうちの親とか結構、その……気が強いですし」

「そんなこと、ありませんよ」

大丈夫ですよ、と言いながら、洗面所から聞こえてくる水の音に瞬時に反応した。

紗矢さんのことを気にかけつつ、私にも丁寧に応えてくれていた。

「でも、紗矢さんたちは知らないかもしれないけど、母と一矢くんは」

「ああ。中学時代に傷つけた女性が貴方だと一矢くんから聞いてますよ」

息を飲みそうになった。でもここで驚いたら色々と聞きだせなくなる。

「そのことで母と一矢くんってどうやって仲が上手く行ったのか、全然想像できなくて」

「それは――」

 紗矢さんが小さく嘔吐くような声がして、一瞬静かになった。

 私も我に返る。彼女が悪阻で苦しいときに、旦那さんから情報を聞き出そうとするなんて。

「すみません。紗矢さんが大変な時に自分の話ばかり。落ち着いたら、また遊びに来てください」
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