とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「いいよ。無理しても紗矢がきついだけだろ。悪阻が治まるまで無理しない範囲にしよう」

肩を抱き支え、優しい言葉をかけてあげる感じ。

羨ましいと思わないわけはない。私と一矢くんは、所詮借金がきっかけなんだから。

「バタバタと本当にすみません」

「ううん。悪阻がおさまったら、今度は私がお邪魔させて」

「はい」

嬉しそうに微笑んでくれてそれだけで私も、今日は良かったなって思う。

「一矢くんは、良い子だよ。何か疑問があるなら、悪化する前にきちんと話してみた方がいい。夫婦ですれ違うのは一番、辛いだろ」

私の様子に、心配そうに聞いてくれたから曖昧に笑ってお礼を述べた。

だって夫婦じゃない。あなた達みたいに愛情があって結婚したわけじゃない。

最初から何もかも違うんだ。

『妹はもう帰った? 俺ももうすぐ着くよ』

一矢くんからのメール。

冷蔵庫の中には、中途半端に焼いたまま突っ込んだハンバーグ。

中まで火は通っていないのに表面は冷えてしまって、油は固まってる。

私たちの関係みたいなだって一人笑って、焼き直す気が起きなかった。

もうすぐ一矢くんが、帰ってくる。
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