とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「……綺麗に伸ばしていた髪を切られた時点で、傷つくに決まってるじゃないか」

「そうだけど、でも」

でも。

親友に裏切られたと知ったら、もっと傷つくんじゃないか。

親友にされたことより酷いことってなんだろうか。

一瞬で考えて、とっさに判断したんだ。

『ただのクラスメートにいきなり髪を切られる』

美里さんがした行為なんてぶっ飛ぶに違いない。

「冷静じゃないな。お前がその子の髪にガムがついてるのが嫌だったんじゃないのか」

「そうかもしれないけど」

「髪にからまってなかったら冷やす、酷い絡まり方だったら、クレンジングオイルか、オリーブオイルみたいな油でも落ちる。今度から覚えておきな」

頭をポンと撫でてくれた後、紙袋を一つ渡してくれた。

「もう一度、謝りにいっておいで。これ、超老舗和菓子店『雅』菓子折り」

「喬一くん」

「玲華さんが好きなはずだよ」

確かに有名で高級な和菓子だと俺でも知っている。

でもこんな菓子折り一つで彼女の傷ついた気持ちが治まるわけがないのも知っている。

案の定、父と彼女の家に伺っても、門前払いで一時間ほど家の前で立っていたが、その日は彼女にもご両親にも会えることはなかった。
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