とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「いやあ、なんか緊張した」

婚姻届けを提出し、簡単に不備がないことを確認してから、「おめでとうございます」と言われ、終わった。

ただそれだけのことなのに、わざわざ駐車場までの通り道で立ち止まり自販機で珈琲を買っていたのは、一矢くん。

全然緊張している様子が表情に出ていないし、余裕の微笑みで「ありがとうございます」って言ってたくせに。

「しかも無糖珈琲買ってしまった」

「飲んであげましょうか、ダーリン」

 私の言葉で表情は変えずとも、耳を赤くしているのは可愛い。

「いいよ、飲むよ、ハニー」

と言いつつも、手に持っただけで結局蓋は開けなかった。

飲まないらしい。

「指輪も予約してるから急ごう」

「はーい」

指輪はお店の二階で簡単に意見を言って、オーダーメイドしてもらうことになった。

有名ブランドなのにデザインから全てオーダーメイドできるのは驚いたけど、問題は最後まで彼もお店のオーナーも金額を言わなかったこと。

 カードでさっさと払っていたけど、一体あれは総額いくらなの?

 私が聞いたら野暮なのかな。半分出すよって言ったら「贈りたいから」の一点張り。

あのブランドの婚約指輪の相場、あとでネットで検索してもいいのかな。

それとも気にしない方がいいのかな。

そこまで高級だったら普段から身に着けてるのは怖いよね。きっと。うん。

「雨が降ってきた」
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