とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「触れて……」

触れていいよって言おうとして、その意味の気づいた。

好きになんてならない。私が触れるまで婚姻届も提出しないで。

セックスしたくない。

私のすべての条件を呑んで疑似結婚していたけれど。

愛し気に私を見る彼の顔が、くしゃくしゃに苦しそうだった。

飲み込まれそうなほど雨の音が大きくなって、視界も聞こえてくる音も全て、私の世界には彼しかいないような錯覚。

短い髪に何度も愛し気に、苦し気に口づけする彼の手を掴んで、頬を寄せた。

「いいよ」

雨で濡れた彼の手が愛おしい。

「触れていいよ」

頬擦りした大きな手に口づけし、彼を見上げた。

助手席に荒々しく手を置くと、覆いかぶさりかみつくような激しいキス。

「ン……っ」

ずるずると落ちてしまわないように、彼の胸にしがみつきながら、私も彼の舌の動きにあわせて深く侵入してみた。

いつも優しいか、クールで落ち着いた一矢くんからは想像できないほど、余裕のないキス。

ここまで求められると体中が痺れて、ぞわぞわしてくる。

「――ごめっ」

乱れたネクタイやスーツの袖を直しながら上半身を起こすと、私の髪を撫でた。

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