とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
***

『劉宮の髪、すっごく綺麗だな』

涼しい風が私の長い髪をさらっていく。その先に、中学時代のまだあどけない一矢くんの姿があった。

『すっげ。サラサラ。あ、勝手に触っちゃった。悪い』

悪びれもせず微笑みつつも、まだ私の髪を触っている。

そうだった。当時、いつもクールな一矢くんが私の髪を触るたびに柔らかく笑うから、私も自分が特別なのかなって意識しちゃったんだ。

この笑顔だ。この笑顔が私の心を奪っていったんだ。

母の数万円する高級なシャンプーとトリートメント。艶を出すワックス、髪のケア。

眠る前に髪を梳く度に、教室での一矢くんの笑顔を思い出して顔がにやけていたんだ。

あの時の一矢くんを思う気持ち、忘れちゃってたね。

忘れて、一人で大人になっていた気でいたよ。大人になったつもりだった。

何もかも見ないで忘れて、成長せずに大人になっちゃってたね。

『華怜』

あの時とは違う。低く落ち着いた声で名前を呼ばれた。

苗字はもう一矢くんと一緒だから、名前を呼んでくれた。

『髪にもう一度、触れていいか』

何回も触れている。何回もあなたの手を感じているのに、わざわざ聞いてくるのね。

いいよ、って返事をする前に私の耳に外の雨の音が聞こえてきた。

夢の中の一矢くんが私の髪に手を伸ばしているのに、私は現実へ引き戻されてしまった。

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