とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「へえ、……へえ、そうなんだ」

クールぶってるけど、耳が赤くなった。

「頬、抓ってあげよっか?」

「お願いしたいが、まだ夢だったら覚めたくないから」

普段私が甘い言葉を言っていないみたいな言い方。

歩きながら目をきょろきょろ動かして思い出してみるが、確かに一矢くんに比べたら言ってなかったかもしれない。

空は曇って、綺麗な星空を消す。人ごみは多いから寄り添って手を繋がなきゃすれ違う人が真ん中を突き抜けるときもある。ムードなんて全くない場所で、それでも私たちは手を繋いだだけで、顔がにやけそうなほど幸せなんだ。

こんな風に、レストランへ向かって手を繋いで歩くだけで幸せって、それほどの相手が隣にいるって奇跡みたい。

「そんなに私、愛情表現下手かなあ」

「違うよ。ただ俺が、勝手にドキドキして幸せになってるだけかも」

「一矢くんが幸せを感じる瞬間って?」

 人ごみを掻き分け、半分ほどシャッターが下りた商店街で人がまばらになってから彼を見上げて聞いてみた。

「沢山あるよ。半熟の卵焼きを作ってくれてたり、俺の服を洗濯して畳んでくれてたり、あとキスしたいなって思って見つめたら真っ赤になって、期待してくれるとか」

起きてすぐと寝る前のキスは慣れたけど、ふと油断したときに降ってくるキスと見つめてくる瞳は確かに恥ずかしい。

 聞かないでいいからさっさとキスしていいって思ってるよ。

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