とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
反射的に下を向いてしまったけど、これでは試せない。

でも美香さんと私の間で境界線をつくれば、少しだけ楽だった。

「華怜さん」

「あ、はいっ」

「呼びにくいな。華怜ちゃん、何頼む?」

クスクス笑いながら、辻さんがお酒のメニューを渡してくれた。

はがきサイズの小さなメニューが、難解な英語に見えて何も見えなくなる。

「私ら、適当に頼んでるから辻さんと牧くんで頼んでよ」

もう一人は牧くんって名前か、そっか。

うんうん、頷きながら、試したくてメニューを返すとき、辻さんの顔を見てみた。

「ありがとう」

爽やかに微笑み、私の機嫌を窺うように首を傾げる。

確かに顔は整っているし、モテそうなオーラは漂っている。

でも、モテそうで顔が極上に整っている人と一緒に住んでいるから慣れてしまったのか、視線もそらさないで済んだ。

それにじっくり舐め回すような値踏みする視線ではないのが、大きいのかもしれない。

「ジンにしとこっかな」

「お洒落な言い方しちゃって」

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