とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「ええ?」

一瞬だけ間が開いたが、辻さんは鼻で笑うように尋ねてきた。

でも、男性とこうやって話す機会が少なかった私だけど、間違いではないなら彼はきっと私に気を引こうとしている気がする。

今までのやりとりや視線からそう感じた。

だから、早めに今日の趣旨を伝えて、彼の作戦を無効にしておきたかった。

「逃れられない相手が、なぜか普通に目を見て話せたから。だから他の人とも話せるようになったのかなって」

「……つまり、今までの俺の露骨なアピールは迷惑で、相手が居るから全く興味もなく、でも今日はこうやって試してみたかったと」

冷たい声で言われたら、私の行いが確かに最悪に聞えてくる。

でも真実だ。私は自分に好意を寄せている人をこうやって騙したんだ。

「申し訳ありません」

「謝るってことはまじなのか。うわあ」

まじかよっと低く呟いた辻さんは顎に手を置いて、右手でグラスを揺らす。

「俺、今まで女性に冷たくされたこともなかったし、あしらわれたり避けられることもなかったから華怜ちゃんの挙動不審な感じ可愛くて、楽しかったんだよね。怖がってるなって分かってても新鮮で」

「すみません……」

「一回ぐらいエッチしてみたい、どんな反応するかなって思うじゃん?」

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