極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
絞れそうなコートを脱いで、後部席に乗せてもらうと、車内は暖かく、体の震えが止まった。

一尾は珍しく単独行動のようで、聞けばこの通り沿いの飲食店に、みかじめ料を徴収にいった帰りなのだそう。


「この辺りも猿亘組の支配域なんですか?」と実乃里が驚けば、一尾がなんでもないことのように教えてくれる。


「まぁ、そんなところ。全部の店じゃねーけどな」


てっきりロイヤルのある下町だけだと思っていた実乃里は、猿亘組の規模を想像する。

日本各地に組員がいるようなことは、マスターから聞いていたが、これまで思っていたよりもずっと大きな組織なのかもしれないと実乃里は考えていた。


「で、どうしたんだ?」

車はハザードランプを点灯させ、まだ停車のままである。

「実は……」と実乃里がわけを話せば、「馬鹿だな」と遠慮なく笑われた。

まったくもってその通りなので、ムッとすることさえできない。


ひとしきり笑った一尾は、缶コーヒーを飲みながら「ロイヤルに泊まれば?」と提案してきた。


「お店の鍵も、バッグの中なんです」

「マジか。マスターも鍵持ってんだろ。電話して開けてもらうのは?」

「マスターと洋子さんの電話番号は、スマホには登録してあるんですけど、今はわかりません。自宅の場所も知らないし、第一、こんな真夜中に呼び出すのは気が引けます」

「それなら、深雪ママの店は……と、駄目か。もう閉店してるな」


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