極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
残念ながら、一尾に理由を教えてあげられず、実乃里はただ頷いて話を聞いていた。

そうしているうちに、ワゴン車は猿亘組の事務所に到着した。

一階の車庫に車を入れ、ふたりは雨の中を階段を駆け上がって玄関へ。

鍵を開けて建物内に入り、一尾が電気をつけた。

羽織っているコートは濡れて重く、体もまだ冷えているが、雨風をしのげる屋内に入ったことで、実乃里はホッとする。


「姉ちゃん、玄関マットで靴をよく拭いてくれよ。床掃除すんの、俺らだから」


よくあるオフィスのような白い廊下は、濡れた靴で歩けば確かに汚れが目立ちそうである。

「はい、わかりました」と返事をし、靴裏を緑のマットに擦りつけていると、一尾が「それ、なんだ?」と実乃里の持っている湿った紙袋に興味を示した。

さすがは大食漢。食べ物センサーでもついているのかもしれない。


「ロイヤルに遅くまでいたのは、パン作りをしていたからなんです。よかったらもらってくれませんか?」


全てを一尾に差し出せば、喜んで受け取ってくれた。


「ピザもあるか?」

「いえ、ピザはないです。メロンパンじゃ駄目ですか?」

「おー、それも好きだ。サンキュー、夜食にはちょうどいい量だな」

(二十七個もあるんだけど、冗談……?)


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